「デジタル化」って具体的に何やるの?と言う疑問は勝ち目のない空中戦。少しだけ遠回りに見えるかも知れないが、技術革新とバズワードの関係性をおさらいしよう。この言葉の曖昧さを理解し、”腹落ち”させることが結局一番の近道である。
職場などでも「デジタル化の波に**%%xx**!!」とか言われたりすることがあるだろう。マジメな人ほど困惑するはずだ。何故なら割とみんな勢いで「デジタル化」と言う言葉を使いがちで、具体性がない。
IT系企業で海外事業や新規企画などにも携わって来た私は、この手の”バズワード”には敏感なほうだと思っている。何故ならこのあたりの言葉は人によって解釈が異なり、そのせいで話が進まなくなったり、手戻りの原因になったりするからだ。
壮大な空中戦..
“バズワード”に踊る人は多いですよね
あなたがもし「デジタル化」って具体的に何やるの?と言う疑問を持っていたとして。私は質問に質問で返す。「あなたは”デジタル化”と言う言葉、そもそも腹落ちしてますか?」
安心して欲しい。これは学術的な話でもなければ技術論でもない。専門的に「デジタル化」の定義を理解する必要はなく、ざっくり”腹落ち”すれば十分。あなたも何となくイメージしているはず。これは所謂バズワードで、過去「IT化」と呼んでいたものを今風に呼び替えているものだと。
モヤッとはみんな理解してるのです。
そしてモヤモヤしたまま空中戦を繰り広げる..
だが例えば「デジタル化(あるいはDX)を推進しなさい」と言う無茶振りを投げつけられた場合には「IT化」とのニュアンスの違いも理解する必要がある。そこから迷走が始まるのだ。デジタル化って何だろう?そもそもデジタルとは。。
もしあなたがそのような迷走中にこの随筆サイトに迷い込んだのだとしたら、それは僭越ながらラッキーなこと。あなたがまず理解しなければならないことは、「デジタル化」「デジタル」などの定義を追い始めることではない。遠回りに見えるかもしれないが、”バズワード”との向き合い方を考え直すのが結局は近道だ。
“デジタル化” と “デジタル”
まずは、「デジタル」について。あなたにとって馴染みのある言葉に違いない。デジタルウォッチとかデジタル写真とか。だが「デジタル」とは何なのか?となると、正確に説明は出来ないと思う。そして敢えて言う。説明できなくて良い。“デジタル”の定義は小難しいし、そもそも本件とは直接関係ない。
“デジタル”の定義、理解しなくて良いのですか?
不要です。
一つ、大事なポイントを解説したい。世に出回っている「デジタル化」の解説ではまず「デジタル」の説明から入る。だがそれによってピントがズレるのだ。従来の「デジタル」の定義を追いながら「デジタル化」を理解しようとすると問題が生じる。
そもそも古来より伝わる算盤(そろばん)も、デジタル計算機の一種。「デジタル化」のデジタルが従来の「デジタル」と同義ならば、算盤の導入も「デジタル化」として扱われるはずだ。だが実際は「デジタル化」によって、算盤はむしろ不要となる。これは矛盾ではない。別物と言うことだ。
まずは、「デジタル」について深く考えないことが「デジタル化」を理解するポイントですね。
ここを間違うと迷走確定なのです。
「デジタル化」のややこしさについて補足する。
「デジタル化」と言う言葉はバズワードになる前からの従来解釈が存在する。それはアナログ→デジタルの移行。例えばフィルム写真からデジタル写真に移行するような類の「デジタル化」である。近年一般化されている”デジタル化”は、アナログ→デジタルの移行とは軸の異なる文脈で使われる。一方、新旧ごちゃまぜで話されることもあるので、話がややこしくなっている。
「IT革命」を振り返る
数年前から急にバズワードになった「デジタル化」。派生用語もたくさんある。特に目立つのはDX(デジタルトランスフォーメーション)で、DX革命とかデジタル革命とか言われたりもする。ここで、何かデジャブーを感じないだろうか?
あなたが何歳か私は知らないが、耳にしたことはあるはずだ。「IT化」「IT革命」など。場合によってはその波に翻弄されたことがあるかも知れない。
「IT」と似た使われ方ってことですね。
一緒と言っても過言ではない。
IT、インフォメーションテクノロジー。日本語にすると「情報技術」だ。当時は「IT化」「IT革命」だのと叫ばれた時代をあなたは経験しているだろうか。そしてその後、ICTだのIoTだのと派生語が出てきて煙に巻かれりしなかっただろうか。
まあIoTはITの小分類として、割とカッチリ定義はありますけど。
「ICT」はちょっと設定に無理がありますね。
IOTは家電などの”モノ”に通信機能を仕込んでコンピュータ制御する仕組み。”Things of Internet”の略で「モノのインターネット」と訳されるが、必ずしもインターネットではなかったりする(人によって解釈は異なる)。ICTは定義が複数あり、それぞれツッコミどころだらけの定義しか存在しないので覚えなくてよい。万が一偉い人が使っている場合には、勇気を持って意図を確認するか、適当にお茶を濁すか選択する必要がある。なおこの言葉は界隈ではほとんど使われず、使っている人はだいたい政府関係者かNT○関係者、もしくはよくわかってない人(個人的な感想です)。
話を戻す。「IT革命」の時代は「IT化を推進せよ!」と叫ばれた時代。だが当時の人々は「IT化」と言う言葉の解釈にはそれほど苦労しなかったはずだ。
「何かコンピュータとか使って、いろいろ便利にするんでしょ?」くらいの感覚ですかね。
まさにそんな感じでしたね。知らんけど
そもそも「IT化」と言う言葉自体に明確な定義などない(少なくとも当時はなかった)。当時、いろいろな人が様々な思いでこの言葉を口にしていたはずだ。だが各人の解釈は大きくズレることもなく、ある一つの解釈に収斂されていた。まさに「何かコンピュータとか使って、いろいろ便利にするんでしょ?」と言った解釈だ。
「IT」とは「情報技術」のこと。本来の意味で言えば、コンピュータに限定する必要もない。では何故当時の人々は大きな迷走もなく「IT革命」を成し遂げて来たのか。それはこの時代の情報技術が、コンピュータに集約されていたからだ。
要はコンピュータ技術が発達したから、それで世の中を便利にするんだと。
そう。それがIT革命です。
単純化して「コンピュータに集約」と記載したが、厳密には「コンピュータとコンピュータ通信技術に集約」が正しい。なお、前述のICTに関連して、「ITはあくまで”コンピュータ”だけで、ICTこそが”コンピュータとコンピュータ通信技術”を包含した完全体である。」と言う人もいる。が、当時の一般的な解釈ではITに通信技術も含まれる。
IT化とデジタル化
冒頭で述べたとおり、「デジタル化」は雑に言えば過去「IT化」と呼んでいたものの呼び替えである。では何が違うのか? 何故急に「デジタル化」が叫ばれ始めたのか?
前項でIT革命について振り返った。IT革命はコンピュータ技術の進歩によって起こった。言い換えると、技術が進歩したことによって「革命」が起こった。デジタル革命と言うものも、また技術が進歩したことによって起こった「革命」だと理解すると、この言葉の意味合いを理解しやすい。
また技術革新が起こったということですね。
少し微妙な点もありますが..
主にはクラウド、AI。クラウド自体は遥か昔から存在していたが、近年になって急激に発達した。話がややこしくなるので、このへんの技術革新の内容は割愛する。雑にザックリ言うと技術の進歩に加え、今まで一部の人間しか利用できなかった高機能なサービスが、大勢の人が利用できるようになったと言うのところが今回の技術革新の大きなポイントである。AIとかビッグデータとかクラウドとか言われているものが複雑に絡み合うことでそれが実現されている。
いずれにせよ「最近顕著に進歩している情報技術を活用して、いろいろ便利にする」ことがデジタル革命ないしデジタル化の趣旨であって、その中身で使われている技術については、誤解を恐れずに言うと「最近顕著に進歩している情報技術」であれば何でも良い。何故なら、正確な定義は存在しないからだ。それっぽい人がそれっぽく定義したりするかも知れないが、どうせすぐには定着しないから無視して良い。
「最近顕著に進歩している情報技術を活用して、いろいろ便利にする」
IT革命当時の「IT化」と同じ定義ということですね。
IT革命当時は「コンピュータ技術」が主役でした。近年では「クラウド」とか「AI」がキーワードですが、そこに限定するわけではなくザックリしてます。
話が少しそれるが「デジタル化」が一般的に使われるようになったあたりから、「IT化」が急に古めかしくなった。今では単にコンピュータ技術を活用することを「IT化」と呼んだりもする。これらの言葉はバズワードであって、定義が確立されないまま、時代とともに変わっていく。
また「デジタル化」は商業的なキーワードの側面もある。IT業界で案件が立ち上がる時、無理矢理にでも「デジタル化」案件と題されることが多い。本来論で言えば、この2つの言葉は意味が重なるので非常にややこしい。これは個人的な推測だが、いずれどちらかの言葉が死語になるのではないか。
新しい方が残りそうですけどね。そしてまた新しい言葉が。
でも「デジタル化」筋悪くないですか?そもそも何でデジタル?*
*個人的な予測で言えば「デジタル化」と言う言葉は死語になると思う。バズワードにしても、ネーミングが適当すぎるからだ。逆に「IT化」と言う言葉はより汎用的な言葉として生き残りそうな気がする。だがこの業界は意外と、名が体を表さない言葉が延々と生き残ったりする業界でもあるから実際のところはわからない。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
最後にこの言葉にも簡単に触れておきたい。「デジタル化」が流行りだしてからしばらくして、この言葉が声高に叫ばれ始めた。読者各位も聞いたことがあるはずだ。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」
「デジタル化」ですらフワフワしているのに、「DXはデジタル化とは別物だ!」などと言い始める人が出てくるから難儀な世の中である。ただこの言葉は誰も明確に説明できないのに、知らないと甘く見られたりもする不思議な言葉。なので名前だけでも覚えて帰っていただきたい。
「デラックス」と読まないようにだけ注意しましょう。
基本的には、「ただデジタル化するのではなく、業務の仕組みなどを変える」という意味合いで使われる。それも含めて「デジタル化」で良さそうなものだが、界隈では新しい用語を使いたがる人が多い。その方がポジティブな反響を受けやすいのだ。
バズワードがビジネスの種になるわけですね。
それも一つのポイントですね。
「IT化」の時代も、ただ純粋に業務内容を効率化するのではなく、ITで新サービスを立ち上げたり、業務そのものを変えようと言う考え方があった。「IT経営」と言う言葉もある。DXもそんな感じの雰囲気の言葉と、何となく抑えておく感じで良い。
ざっくりですね..
「デジタル化」に包含されてるし、定義が固まってないので..
あくまで架空の例。
例えばコンビニ。レジにAIロボットを置いて接客させたとする。これは、従来人手が必要だった箇所を自動化して効率化するだけなので、「デジタル化」。一方、ネットで注文が出来るようにして、ドローンで自動配達させるようにする。ドローンの配達範囲が広いので、在庫拠点を準備した上で店舗を減らす。顧客は注文から30分以内で、自宅で商品を受け取れるようになると仮定する。このような場合、顧客の利便性も業態も大きく変革されるので、DXと呼べたりする。(前述のとおり、人によって解釈も違うので雰囲気で。)
もしあなたが会社員だとして、万が一あなたの上司から「DXを推進するぞ!」と号令が掛かったら、注意したほうがよい。上司がどういうつもりでその言葉を使っているのか探ることを推奨する。本来は経営マターと言うか、組織運営レベルの話だからだ。
権限ないと動きづらいやつですね。
「何か案作れ」と言う無茶振りが多いようです。
もちろん、あなたが野心に満ちたやり手のビジネスマンだったら、これをチャンスと捉えるべきかも知れない。まずあなたの会社の経営層と目線を合わせる。そのニーズに沿って新しい技術を取り入れることが出来れば、大きな成果として認められるはずだ。
まとめ
- 近年の「デジタル化」は、アナログ→デジタルの移行とは別軸の話(混同することもある)
- IT革命時代の「IT化」と近年の「デジタル化」は、その時ホットな技術で世の中を便利にする、と言う意味で同義
- 上述の「その時ホットな技術」とは、「IT化」(IT革命当時)ではコンピュータ技術の革新、近年の「デジタル化」はクラウドやAI技術の革新などをキーワードにもっと多様なもの
バズワードは定義が曖昧であり、時代/語り手によって様々な意味を持つことがある。正解・不正解があるわけではない。正しい解釈を目指すのではなく「今どのように使われているか」に注意を向けることが重要である。
空気を読め、と。
会話に出てくる場合は斜に構えずマウントも取らずに、相手がどう言う意図で使っているのか、理解に務めることが大事です。
今後とも精進する。
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